戦術やトレーニングメニューなど、GKに関する知識は書籍やインターネットで簡単に調べることができます。しかし、果敢なシュートストップや勢いのある飛び出しなど、積極的なプレーのコツ。より上達するためのトレーニングに対する心構えなど、GKの心と頭に深く関わる知識を見つけるのは難しいのではないでしょうか。
そこで、育成年代からJリーグのトップカテゴリーまで。全てのカテゴリーでGKコーチの経験がある、GK育成のスペシャリストである澤村氏が、自身の経験をもとに選手のスキルアップにつながる知識をお伝えしていきます。そして、本コラムを通して、選手の人生までもが豊かになることを目指していきます。
第10回目は、GKが“攻守の要”となるために必要な能力、大切にすることをご紹介します。
“攻撃の第一歩目”、“ゲームチェンジャー”、“守護神”、“グラウンドの監督”。これらすべて、GKを表す表現になります。これだけ様々な呼び方があるのは、サッカーではGKだけでしょう。それだけ求められる役割が多く、重要なポジションだと考えられている証拠です。
GKの呼び方の中に、“攻守の要”というものもあります。“要”とは、“最も大切な部分”という意味。GKが“攻守の要”になるためには、自分の意見を伝え相手の意見を聞くコミュニケーション力。チームをまとめるリーダーシップ。自分の考えを広める自己発信力。ゲームの流れを見逃さない観察力。ゲームの勝敗やチームの雰囲気に左右されることなく、仲間をまとめていくためには、こういった能力が必要なのです。
どんなに能力が優れたGKであっても、仲間とコミュニケーションがとれなければ、連携ミスが多くなります。自分中心のプレーばかりしていたら、チームをまとめることはできません。理想のチームとは反対の集団となり、勝利から遠ざかってしまうでしょう。だからこそ、仲間から信頼される人間性が“攻守の要”には必要なのです。
“攻守の要”になるGKは、みな素晴らしい人間性を持っています。普段から正しい努力を行い、えらぶらず、チームメイトやスタッフにリスペクトの心を忘れません。人の意見を受け止める傾聴力があり、道具をそまつに扱うこともしません。まさに、その人がいればより良い結果が得られると、チームに自信を与えるような存在です。
サッカーとは、相手より多く得点し勝つことが目的のスポーツです。その目的を果たすために、相手ゴールに向かって攻撃し、自分のゴールを守備するのです。このサッカーの本質を理解しつつ、戦術を学んでください。
攻撃においては、攻撃の優先順位を理解しましょう。GKがボールを持った時は、近い選手にパスをするだけでなく、相手DFの裏といったゴールに近い場所に、ボールを供給することも狙ってください。守備で重要なのはボールを奪うこと、シュートを打たせないことです。それらを実行するためにGKが指示を出し、マークの確認を行います。そして、相手FWに「シュートが打ちにくいな」と、思わせるポジションをとるのです。
現代サッカーにおいてGKの攻撃力は、ゴールキーピングと同じくらい求められています。選手のみなさんは、キックやスローイングの精度も高めていきましょう。ロングキックやパントキックは、受け手がどんなボールを求めているか、受けやすいのかを意識してトレーニングしてください。壁に向かってキックするだけでなく、仲間に向かってボールを蹴った方が上達も早いでしょう。
全体練習の開始前にグラウンドに来て、壁やネットに向かってキックの自主練習をするのも素晴らしい取り組みです。しかし、キックが上手い選手はみな、ボールの受け手をたててトレーニングをしています。「今のはトラップしやすかった?」など、受け手に確認しながら、どんなボールが有効か常に意識しているのです。スローイングもキック同様に、受け手に向かって投げるとよいでしょう。また、オーバーハンドスローは野球、サイドスローは円盤投げ、アンダーハンドスローはボーリングといった競技の投げ方が参考になります。ぜひチェックしてみてください。
“攻守の要”にふさわしいGKとなるために、 “24時間をデザイン”できるようになってください。毎日のスケジュールを自分で立て、受け身ではなく、積極的に日々の生活を送りましょう。そして、スキルはもちろん、周囲から信頼される人間性を身に付けてください。そうすることで、サッカーという競技だけでなく、様々な分野で活躍する人材へと成長できるでしょう。
次回、第11回は 2021年4月14日(水)
掲載予定です。
企画・構成・文章/佐々木 貴智