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心と頭が変わるとプレーが変わる!

人生を豊かにする
GKスキル

戦術やトレーニングメニューなど、GKに関する知識は書籍やインターネットで簡単に調べることができます。しかし、果敢なシュートストップや勢いのある飛び出しなど、積極的なプレーのコツ。より上達するためのトレーニングに対する心構えなど、GKの心と頭に深く関わる知識を見つけるのは難しいのではないでしょうか。

そこで、育成年代からJリーグのトップカテゴリーまで。全てのカテゴリーでGKコーチの経験がある、GK育成のスペシャリストである澤村氏が、自身の経験をもとに選手のスキルアップにつながる知識をお伝えしていきます。そして、本コラムを通して、選手の人生までもが豊かになることを目指していきます。

第6回目は、将来サッカーに関わる仕事に就きたい方に向けて、GKのキャリアについてご紹介していきます。

【第6回】

プロ以外にもGKのキャリアはある。



選択肢を知る
ことが大切。

今回は私の経験を踏まえながら、GKのキャリアについてお話しします。コラム読者の中にも、プロ選手を目指している方がいるでしょう。プロを目指し日々サッカーと向き合うことは、とても素晴らしい取り組みです。ただし、GKのキャリアはプレーヤー以外にもあることを、ぜひ知っておいてほしいのです。

私のようにGKを育成するコーチなどの指導者。他にもコンディションを整えるトレーナーやサッカー関連のメディアに関わることも、GKの経験を活かしたサッカーに関わる仕事。大切なのは自己分析を行いながら、自分の目標をどこに置くかです。周りの仲間がプロを目標にしているからといって、同じように目指す必要はありません。自分の可能性を考えながら、プレーヤー以外の選択肢を考えてみれば、今までとは違った発見があるはずです。

サッカー一筋で
なくても大丈夫。

GKに取り組んでいる選手たちにとっては、サッカーが人生の中心かもしれません。しかし、一歩引いてみると、サッカーの世界だって社会のほんの一部にすぎないのです。日本では“●●一筋”と表現するように、ひとつのことをやり続ける人を称賛する文化があります。しかし、自分の可能性を広げるために、サッカー以外の分野を経験してもいいのです。また、他のジャンルに打ち込んでいる人の話を聞いたり、本を読んでみたりと知識を得るのもオススメです。自分にとって何がプラスになるのか。この視点で物事をとらえてください。

「なりたい」だけでは、
プロ選手にはなれない。

長年GKを指導して気がついたことがあります。それは、「プロになりたい人がプロになるのではない。プロの世界から求められる人がプロになる」ということです。厳しい言い方かもしれませんが、いくらやる気があっても必要とされなければ、プロ選手にはなれないのです。

「プロになりたい」という言葉は、これまで選手からたくさん聞いてきましたが、「プロの世界から求められるGKになりたい」と言った人は今まで数名しかいません。プロの世界から求められるGKになるには、どうすればよいのか。上を目指している方は、ぜひ考えてみてください。

私のGKキャリア①
選手から指導者へ転身。

大学卒業後にお世話になった鳥栖フューチャーズから、私の指導者としてのキャリアはスタートしました。ここではセカンドチームのGKとしてプレーをしながら、アカデミーで育成年代を指導。その後、ブレイズ熊本に移った後も選手兼指導者というポジションで働いていました。そして、24歳の時に一線を退き、大津高校にてGKコーチ一本で活動を始めたのです。

指導をしながら選手としてプレーをしていたのは、プロ選手へのステップアップも視野に入れていたから。しかし、24歳になる頃に、指導者一本での活動を決意したのです。学生時代から指導者になりたいと思っていましたので、この判断に迷いはなく「ここまでよくプレーできたな」と達成感を得られたのを今でも覚えています。

私のGKキャリア②
Jクラブからのオファー。

大津高校時代はサッカー部で指導を行いながら、熊本県内の選手を集めてGKスクールを開催していました。活動は徐々に広がりをみせ、九州全土からGKが集まり、ジュニアから大学生まで最大108名が参加するスクールへと成長。その実績が認められ、JFAから九州のGK育成担当を任されるまでになりました。

その後、複数のJクラブからオファーをいただき、大津高校から浦和レッズに移るとユースを担当。そのタイミングで女子日本代表 GKコーチも兼任し、女子サッカーの指導を経験することができたのです。

私のGKキャリア③
全カテゴリーを経験。

その後、川崎フロンターレなどでも指導を行い、40歳の時に浜松開誠館中学校・高等学校サッカー部のGKコーチに就任しました。この時は体育教師として教鞭をとり、担任としてクラスを受け持ちました。サッカーの世界とは関係ない一般生徒とも関わり、卒業生まで送り出すことができたのは、私の人生にとってかけがえのない経験になりました。そして、2015年にロアッソ熊本のトップチームからオファーをいただいたのです。こうして全カテゴリーのGK指導を経験。さらに、2019年にはサンフレッチェ広島のGKコーチとなり、J1のクラブでも活動できたのです。

私が様々なチームから声をかけてもらえたのは、指導した選手のおかげだと強く思っています。彼らがチームで活躍することで、育成を担当していた私にもオファーが届くようになったのです。選手への指導がプラスになって自分に返ってきたと、彼らには感謝の気持ちでいっぱいです。

コーチとして大輪の花を
咲かせた教え子。


柏レイソルでトップチームのGKコーチを務める井上敬太さんは、大津高校時代の私の教え子です。身長は170cm台とGKの中では小柄でしたが、そんな自分がどうすれば上手くプレーをできるのか、常に考えながら努力する選手でした。また、高校時代から指導者になるという明確な目標を持ち、大津高校が全国大会に出場した際には、GKアシスタントコーチとしてベンチにも入っていました。

選手時代は輝かしい実績がなかったかもしれませんが、今ではJ1トップチームのGKコーチとして活躍。指導者というポジションで、プロの世界から必要とされる人材に成長したのです。これも素晴らしいGKのキャリアであると、私は考えています。

指導者を目指す選手へ。

指導者にとって最も大切なのは、GKのスキルや知識ではありません。必要なのは、小さなことに気づける洞察力です。選手の表情が昨日と違う。プレー中に身体を気にしている。前よりもスキルが伸びた。優秀な指導者は、こうした選手の変化に敏感です。

また、指導の中で様々なことを伝えていくためには、コミュニケーション力が重要。サッカーの知識が豊富でも、それらが選手に伝わらなければ意味がありません。もし、指導者を目指すならば、日々の生活から小さな変化を見つけて、観察眼を養ってみるのもよいでしょう。自分の考えを的確に伝える、相手の意見を引き出す、コミュニケーション力もぜひ磨いてください。

本コラムのまとめ。

  1. サッカーのプロは、
    プレーヤーだけではない
  2. サッカー一筋でなくてもいい
  3. プロ選手になるなら、
    求められる人材になる
  4. 優秀な指導者は、
    選手の変化に敏感

次回、第7回は 2021年2月17日(水)
掲載予定です。

企画・構成・文章/佐々木 貴智

プロフィール

澤村公康コーチ

澤村 公康 / ゴーリースキーム代表

青山学院大学 GKアドバイザー
専修大学 GKアドバイザー

【指導歴】
1995年 - 1997年 鳥栖フューチャーズ 育成GKコーチ
1997年 ブレイズ熊本 育成GKコーチ
1998年 - 2003年3月 大津高校 GKコーチ/JFAナショナルトレセンコーチ
2003年4月 - 2008年1月 浦和レッドダイヤモンズ育成 GKコーチ/女子日本代表 GKコーチ/JFAナショナルコーチングスタッフ
2008年2月 - 2011年 川崎フロンターレ育成 GKコーチ/青山学院大学 GKコーチ
2012年 - 2014年 浜松開誠館中学校・高等学校 GKコーチ
2003年・2013年 日本高校選抜 GKコーチ
2015年 - 2018年 ロアッソ熊本 GKコーチ
2019年 サンフレッチェ広島 GKコーチ
2020年 現職

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