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心と頭が変わるとプレーが変わる!

人生を豊かにする
GKスキル

戦術やトレーニングメニューなど、GKに関する知識は書籍やインターネットで簡単に調べることができます。しかし、果敢なシュートストップや勢いのある飛び出しなど、積極的なプレーのコツ。より上達するためのトレーニングに対する心構えなど、GKの心と頭に深く関わる知識を見つけるのは難しいのではないでしょうか。

そこで、育成年代からJリーグのトップカテゴリーまで。全てのカテゴリーでGKコーチの経験がある、GK育成のスペシャリストである澤村氏が、自身の経験をもとに選手のスキルアップにつながる知識をお伝えしていきます。そして、本コラムを通して、選手の人生までもが豊かになることを目指していきます。

第5回目は、積極的なプレーを実行するために重要となる、決断についてご紹介します。

【第5回】

決断することの大切さを知る。



経験を積むためには、
決断が必要。

安定したGKになるために必要なプレーのサイクル(観る・状況把握→予測→判断・決断→プレーの実⾏)を前回(【第4回】プレーのサイクルを理解して、安定したGKへ。)はご紹介しました。その中でも特に重要なのが決断です。受け身でなく、能動的にプレーをする。失敗も成功も自分の責任として受け止める。このように自分事としてGKの経験を積むためには、決断が重要となります。

例えばGKが1対1の際に、仲間や指導者から「出ろ」と指示されて前に出るのか。自分の決断で飛び出すのかで、得られる経験に差が生まれます。人から言われて実行したプレーでは、成功したとしても本当の自信にはつながりません。もしもそのプレーで失点すれば、指示を出した人の責任にしてしまうなど、プレーの結果を経験として蓄積できないのです。

自分の決断でプレーをすれば、成功は自信につながりますし、失敗したとしてもその原因を自己分析することもできます。この積み重ねが、GKの経験となるのです。人から言われて実行したプレーは、成功も失敗も成長の糧にはなりません。

外部の人が、
決断を妨げない。

ベンチの指示によってプレーを制限された経験があるGKは、決して少なくないはずです。しかし、どの世代にも共通して言えることは、外部からの指示によってGKのプレーをコントロールし、決断する機会を奪ってはいけないということです。サッカーとは選手が決断しながら、プレーを楽しむスポーツ。誰かの指示通りに動くのは、サッカーの本質から外れた行為なのです。

私自身、ベンチの指示に従いながらプレーをした経験がありますが、ゲームが非常につまらなかったことを覚えています。プロの試合でも当然、GKの決断をベンチからコントロールするようなことはありません。そのゲームは選手の人生の中で行われていることであって、グラウンドの外にいる人のものではないのですから。

決断に対する反省は
ゲーム後に。

もちろん、決断に対してのフィードバックは必要です。それらはゲームが終わった後に行えばよいのです。なぜそのような決断をしたのか理由を聞き、プレーの成功・失敗に関わらずその決断を認め、さらに良いプレーになるよう議論します。決断を伴わない中途半端なプレーをしてしまうと、次にどのような決断をするべきか話し合いができず、プレーの改善につながらないのです。

決断力を養うためには。

トレーニングでは、判断材料がある内容を積極的に取り入れましょう。対人練習などでGKがゴールを守る場合は、シュートだけに反応するようなボールとゴールだけの関係でプレーをしないように注意してください。FWの様子や位置を把握し、DFに指示を出すよう心がけてください。シュートやクロスに対応するトレーニングでは、DFやFWに入ってもらいながら、ゲームに近い形で取り組むことで決断力を養えます。

決断することで、
プレーが変わった選手。


2020年4月から専修大学の正GKになった高島康四郎君を初めて指導した時は、中途半端なプレーが目立つなと感じていました。キャッチングかパンチングか。アタックか、ステイか。そういった決断が苦手な選手だったのです。そんな彼から「プロを目指すか、会社員になるか迷っている」と相談を受けました。その時私は「プロを目指すなら目指すと決断すればいいし、会社員になるならなると決断すればいい。ただ決めるだけだ」とアドバイスしました。

この言葉によって、高島君はプロを目指すことを決めたのです。その後、彼のプレーはみるみる変化し、決断力に優れたパフォーマンスを発揮できるようになりました。何かを決断すると腹をくくることができ、行動がポジティブになるのは珍しくありません。選択に迷う場合もありますが、「こうするんだ」と決めることは、大きな力を与えてくれるのです。そして、高島君は卒業後の2021年シーズンから、J3リーグのヴァンラーレ八戸でプレーすることが決まったのです。

成功も成長も決断次第。

一つひとつの決断によって、良いプレーができるようになります。また、その決断によって良い結果が出たのであれば、類似したシーンで同じ決断をすれば成功する可能性は高くなります。反対に良いプレーができなければ、次は違う決断をすれば結果が変わってくるはずです。

自分で決断したプレーであれば、ゲーム後に自己分析を行うこともできます。その分析がGKの成長につながるのです。全てのプレーは自分の人生で起こる、自分だけのもの。誰かの指示を待つのではなく、自ら動いていくことが何よりも大切なのです。

本コラムのまとめ。

  1. 決断によって、
    成功も失敗も経験となる
  2. 反省はゲーム後に行う
  3. 決断力を養えるトレーニングに取り組む
  4. 誰かの指示を待たない。
    自ら動く

企画・構成・文章/佐々木 貴智

プロフィール

澤村公康コーチ

澤村 公康 / ゴーリースキーム代表

青山学院大学 GKアドバイザー
専修大学 GKアドバイザー

【指導歴】
1995年 - 1997年 鳥栖フューチャーズ 育成GKコーチ
1997年 ブレイズ熊本 育成GKコーチ
1998年 - 2003年3月 大津高校 GKコーチ/JFAナショナルトレセンコーチ
2003年4月 - 2008年1月 浦和レッドダイヤモンズ育成 GKコーチ/女子日本代表 GKコーチ/JFAナショナルコーチングスタッフ
2008年2月 - 2011年 川崎フロンターレ育成 GKコーチ/青山学院大学 GKコーチ
2012年 - 2014年 浜松開誠館中学校・高等学校 GKコーチ
2003年・2013年 日本高校選抜 GKコーチ
2015年 - 2018年 ロアッソ熊本 GKコーチ
2019年 サンフレッチェ広島 GKコーチ
2020年 現職

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