戦術やトレーニングメニューなど、GKに関する知識は書籍やインターネットで簡単に調べることができます。しかし、果敢なシュートストップや勢いのある飛び出しなど、積極的なプレーのコツ。より上達するためのトレーニングに対する心構えなど、GKの心と頭に深く関わる知識を見つけるのは難しいのではないでしょうか。
そこで、育成年代からJリーグのトップカテゴリーまで。全てのカテゴリーでGKコーチの経験がある、GK育成のスペシャリストである澤村氏が、自身の経験をもとに選手のスキルアップにつながる知識をお伝えしていきます。そして、本コラムを通して、選手の人生までもが豊かになることを目指していきます。
第8回目は、相手からボールを奪うこと、積極的なプレー・チャレンジに深く関わる、GKのアタックについてご紹介します。
GKのプレーは「ボールを受ける」、「ゴールを守る」といった、言葉が多くなりがちです。こうした表現によって、GKが受け身のポジションになってしまいます。だからこそ、心と体でボールにぶつかっていく、アタックが重要になるのです。
GKがアタックしていくためにプレーで意識することは、ボールへの直線的な動きです。もちろん、シーンによって様々な動きが必要になりますが、直線的に動くことによって、スルーパスなどに対して素早く飛びこめるようになります。
元ドイツ代表で現役時代はレッズでも活躍し、監督としてもその手腕を発揮した、ギド・ブッフバルト氏とGKについて話す機会がありました。ギドはその時「GKは野球で例えるとバッターだ」と、話してくれました。GKをキャッチャーに例えることは珍しくありませんが、バッターというのは初耳でした。理由をたずねると「攻撃のために、バットでボールにぶつかりにいくのがバッターだ。GKも同じく攻撃のために、ボールにぶつかりにいくポジション」と彼は言ったのです。これこそ、日本とドイツのGKに対する考え方の違いなのです。
日本では守ることを“守備”と言いますが、ドイツでは“ボールを奪う”と表現します。つまり、“守備”という概念はドイツにはなく、“攻撃”と““ボールを奪う”というプレーしかないのです。だからこそギドは、GKをバッターだと言ったのでしょう。こうした考えが浸透しているからこそ、ボールにアタックできる優秀なGKをドイツは多数輩出しているのです。
「ミート・ザ・ボール(ボールを迎えに行く)」つまり、ボールに寄っていくアクションがGKのアタックには重要です。クロスなどに対して、一歩でも前でボールにアプローチできるように動きましょう。そうすればファンブルしたとしても、ボールとゴールの間に距離があるため、そこからのリカバリーが可能になります。
シュートに対してアタックするためには、ゴールより1mmでも前でボールに触れるようになることです。“ゴールを守る”のではなく、“ボールを奪う”という気持ちも大切。トレーニングの際には、ゴールエリアなどのラインを使ってローリングダウンをするのも有効です。図のように45度を意識した動きによって、横っ飛びではなく、ゴールより前でキャッチングできるローリングダウンが身につきます。
また、最近ではグローブのことを“GKグローブ”という呼び方をされていますが、私がプレーしていた頃は“キャッチンググローブ”と言われていました。文字通り「キャッチするため」のアイテムと考えられていたのです。そう考えるとグローブを使うGKは、ゴールを守るためにいるのではなく、ボールをキャッチング(奪う)ためにいるという考え方もできるのです。
プレーをしている時だけでなく、日々の暮らしにおいても積極性を持つことが、アタックの精度を高めるでしょう。ミーティングなどで、自分の意見をしっかりと発信する。学校の掃除など、一見するとサッカーとは関係ないことも率先してやる。こうした積み重ねが、GKのアタック力となっていくのです。
また、守備だけでなく攻撃の起点になるようなアタックも、GKには求められています。ボールを奪ったら、セーフティにDFにパスするだけでなく、ゴールに近いFWを目標に相手の裏に出るロングボールにもチャレンジしてください。攻守の要として、チームを勝利に導くアタックを目指していきましょう。
次回、第9回は 2021年3月17日(水)
掲載予定です。
企画・構成・文章/佐々木 貴智