戦術やトレーニングメニューなど、GKに関する知識は書籍やインターネットで簡単に調べることができます。しかし、果敢なシュートストップや勢いのある飛び出しなど、積極的なプレーのコツ。より上達するためのトレーニングに対する心構えなど、GKの心と頭に深く関わる知識を見つけるのは難しいのではないでしょうか。
そこで、育成年代からJリーグのトップカテゴリーまで。全てのカテゴリーでGKコーチの経験がある、GK育成のスペシャリストである澤村氏が、自身の経験をもとに選手のスキルアップにつながる知識をお伝えしていきます。そして、本コラムを通して、選手の人生までもが豊かになることを目指していきます。
第3回目は、GKのレベルアップに大きく影響を与える、3つの「かく」についてご紹介します。
人間は「忘れる天才」と言われるほど、物事を忘れてしまう動物です。サッカーにおいても、良いプレー、悪いプレーどちらも頭からすぐに消えてしまいます。だからこそ、日々サッカーノートに気がついたことを書いておきましょう。頭の中でプレーをイメージするだけでなく文字に残しておけば、毎回の失点パターンや良いプレーが発揮できる傾向も分かります。
仲間やコーチのアドバイスなども加えつつ記録を残しておけば、そこから見えてくるものがあるはずです。良いプレーを発揮できる確率が増やせるように、セービングなど正しいフォームもサッカーノートに書いておき、繰り返しトレーニングしましょう。
フィーリングに合ったトレーニングや「これはゲームに使えるな」と思ったメニューは、忘れないように書き残しましょう。他にもどんな言葉で心が奮い立ったのか、逆にネガティブになったのか、安心できたかなども書いておくと後で自己分析に使えます。
プロの場合は、その日に食べたものを記録する選手もいます。何を食べると動きやすいのか、逆に体が重くなってしまったのか。食事はパフォーマンスに直結する要素になりますので、記録しておくことをオススメします。スマホやパソコンではなく、手で書く方が物事を覚えられます。ぜひ、自分の字で様々なことをサッカーノートに書いて、定期的に読み返してみましょう。
良いプレーをサッカーノートに書き残し、そのプレーが常にできるように、汗をかきながらトレーニングに取り組んでください。練習とは、“習ったことを、練りこんでいく”こと。苦手なプレーも繰り返しチャレンジして、改善できるようにしていきましょう。
私が現役時代から苦手だったのが、左足のキックです。コーチになってからも、選手のトレーニングでは右足だけでシュートを打っていました。しかし、より優れたコーチになるためには、左足でもシュートを打てるようにならなければと考え、必死で練習するようにしました。
そんなある日、高校選抜のコーチとしてドイツへ遠征した際に、試しに左足で選手にシュートを打ってみたのです。すると、思った以上に上手くいきました。この姿が現地メディアの目にとまり、「日本のGKコーチは左足のキックも素晴らしい」と取り上げてもらうことに。その成功体験がきっかけとなり、左足に自信がつきました。その後、元女子日本代表の澤穂希さんからは、「サワさんて左利き?」と聞かれるまでに上達。時には左足のシュートで失敗をし、恥をかいたこともあります。それでもチャレンジしていかないと、レベルアップは望めないのです。
今まで失敗が多く成功が少ないプレーを、選手は苦手と感じてしまいます。上手くいかない理由は“そのプレーを理解していない”、“スキルが足りない”など原因は様々。それらを克服するためには、成功を求めてチャレンジすることが重要です。「ミスをして、恥をかきたくない」と考えてしまうと、アクションを起こせなくなってしまいます。
大津高校の平岡監督の言葉で、「やらされる100回より、やる気の1回」という言葉があります。人から言われてチャレンジしても、それは自分のためにならないのです。たとえ恥をかいても、自ら動くことがその後の大きな成長につながるのを忘れてはなりません。
チャレンジの時は、成功をイメージすると最初の一歩が踏み出せます。日本では「失敗したらどうしよう」と考えながら、プレーするGKが目立ちます。一方海外では「成功してヒーローになるんだ」と考え、プレーする選手が多くいると感じています。日本のGKもポジティブなマインドを持つことができれば、もっともっとステップアップできるはずです。
もう一つプレーを成功させるためのコツがあります。それは、開始姿勢やキャッチング技術など、基本技術の徹底です。そのためにも、字をかき、汗をかきながら、技術を練りこんでいきましょう。
企画・構成・文章/佐々木 貴智