戦術やトレーニングメニューなど、GKに関する知識は書籍やインターネットで簡単に調べることができます。しかし、果敢なシュートストップや勢いのある飛び出しなど、積極的なプレーのコツ。より上達するためのトレーニングに対する心構えなど、GKの心と頭に深く関わる知識を見つけるのは難しいのではないでしょうか。
そこで、育成年代からJリーグのトップカテゴリーまで。全てのカテゴリーでGKコーチの経験がある、GK育成のスペシャリストである澤村氏が、自身の経験をもとに選手のスキルアップにつながる知識をお伝えしていきます。そして、本コラムを通して、選手の人生までもが豊かになることを目指していきます。
第2回目では、「攻撃的なGK」に必要な考え方やプレーのコツを詳しくご紹介します。
GKは相手の動きに合わせながらシュートを止める、「守り専門」のポジションだと思われています。しかし、GKのスキル次第では大ピンチを守りきり、マイボールにすることで大チャンスへと変え、攻撃の起点となれるポジションなのです。
そこで重要なのが、「どう守るか」という考えを基にした受け身の技術発揮ではなく、相手に対して「仕掛けていく」スキル発揮なのです。これによりGKがプレーの主導権を握り、攻撃的なプレーにつなげることができます。
プレーには、アクションとリアクションの2パターンしかありません。GKは相手に合わせて動く、リアクションプレーヤーだと思われがちです。しかし、優れたゴールキーピングを発揮するためには、体は相手の反応を待っていても、心と頭が先手でアクションを起こす必要があるのです。
こうしたGKのマインドは、相手FWにも伝わります。相手の動きばかりに気をとられている弱気なGKであれば、シュートをどんどん狙われてしまうでしょう。反対に攻撃的で堂々としたGKであれば、絶好のシュートチャンスでも相手がパスを選択することもあるのです。当然この雰囲気は仲間にも伝わり、「あいつがGKでよかった」という大きな信頼へとつながっていきます。
監督やコーチから、「相手が動くまで、GKは動くな」というアドバイスを受けたことのある選手は多いのではないでしょうか。「待つ」という受け身な行動も、考え方によっては攻撃的なプレーにつながるのです。
例えば、1対1でGKが動かないことにより、相手が我慢できずに先にドリブルを選択。その動きを予測できれば、ボールを奪うことができます。体は動いていなくとも、心と頭が先手で相手に仕掛けることで動きを誘導させる、攻撃的なプレーができます。
シュートを「打たれる」のか、「打たせる」のか。そこには精神的にも、大きな違いがあります。「打たれる」というのは受け身であり、シュートに対してリアクションしているだけなのです。「打たせる」ことは、その前段階までにアクションを起こし、シュートへと誘導させています。そのため、GKが想定するシュートに、相手を限定できます。そして、シュートを受ける際には、開始姿勢や打たれる瞬間に動き出せる準備をしておくことで、ミスなく対応できるようになるでしょう。
GKが相手のプレーに対して準備をするためのアドバイスとして、「ボールに集中しろ」という言葉があります。ですが、私ならそのようなアドバイスはしないでしょう。なぜなら、GKはボールと勝負するのではなく、人と勝負するからです。ボールだけでなく、相手も観察しながらプレーを予測し、ゴールを守りましょう。
ロアッソ熊本で一緒に戦った佐藤昭大選手は、優れた予測をするGKでした。相手チームの戦術やFW(プレースタイルから性格まで)を熱心に分析。さらに、自己分析も怠らず、ゲームの流れと動きを常に予測できる準備を行っていました。彼がゴールを守っている時に、不測の事態によって「あっ」と驚いたことが私はありません。安定したプレーによって、仲間からも絶大な信頼を集めていました。彼の周到な準備と優れた予測は、鹿島アントラーズという常勝チームでプレーしていた経験があるからこそ。勝つための逆算によって、適切な予測ができる準備をしていたのです。そんな彼は、モンテディオ山形に移籍後も第一線で活躍中です。
相手のプレーを観察し、予測を立てながらゴールを守ることが重要です。また、自身の性格や技量、得意・不得意なプレーを把握するための自己分析も大切。日頃からサッカーノートをとりながら、どんな時に良いプレーができていたか、逆にどんな場面で苦手だと感じたのか。それらを把握しながら、トレーニングで何を伸ばすか、何を克服するかを明確にしていきます。
ゲームでは自分の得意なプレーを発揮する流れを作るために、仲間と積極的にコミュニケーションをとりながら連携しましょう。例えば、自分がクロスに弱いと感じているなら、味方DFにクロスを上げさせないような守備を指示し、シュートを誘導する守り方もひとつの方法です。ただし、苦手だからといって、クロスに対してアプローチを諦めてはいけません。トレーニングで何度もチャレンジしながら、苦手を克服できるように取り組んでください。
企画・構成・文章/佐々木 貴智