
戦術やトレーニングメニューなど、GKに関する知識は書籍やインターネットで簡単に調べることができます。しかし、果敢なシュートストップや勢いのある飛び出しなど、積極的なプレーのコツ。より上達するためのトレーニングに対する心構えなど、GKの心と頭に深く関わる知識を見つけるのは難しいのではないでしょうか。
そこで、育成年代からJリーグのトップカテゴリーまで。全てのカテゴリーでGKコーチの経験がある、GK育成のスペシャリストである澤村氏が、自身の経験をもとに選手のスキルアップにつながる知識をお伝えしていきます。そして、本コラムを通して、選手の人生までもが豊かになることを目指していきます。
記念すべき第1回目では、自主性を持つこと、ポジティブな心の大切さをご紹介していきます。
サッカーという人気スポーツの中でも、GKは特別なポジションだと考えています。プロの場合、選手の誰よりも先にグラウンドに出てウォーミングアップを開始。ユニフォームの色も違い、11人の中で一人だけ手が使え、PKを止めることが可能です(フィールドがPKを止める場合は、GKのユニフォームに着替えポジションがGKとなる)。
GKグローブや帽子といった、アイテムの使用も許可されています。アイテムの使用はルールブックにも記載があり、寒いからといってフィールドが手袋の代わりにGKグローブをつけることは禁止されています。また、メンバー表の中にGKがいなければ、ゲームを行うこともできません。GKだけができることを挙げたら、これだけ多くのことがあるのです。
海外ではポジションを表す場合1-4-4-2と、必ずGKも記載されます。しかし、日本では4-4-2など、GKが記載されません。さらにゲームにおいても、得点シーンでは選手みんなが集まり喜びますが、失点シーンではGKの周りに集まり悔しがる選手はあまりいません。特別なポジションであるはずのGKが、時には雑な扱いを受けたり、孤独感を味わうこともあるのです。みなさんもプレーしている中で、感じたことはありませんか?
ゴールを守るという、失敗が許されない責任あるポジションであるGK。その分だけ大変なことが多くあり、時には孤独感を感じることも。だからこそ人に言われてプレーするのではなく、自分の意思でプレーしてほしいと考えています。ポジティブに物事をとらえ、自主性を持ってトレーニングに取り組むことで、吸収できることが飛躍的に多くなります。
自主性とは、「主」が真ん中にくる大事な言葉。自主性があるからこそ、「こんなプレーをしてみたい」、「あの選手みたいになりたい」と目標が生まれるのです。さらに、「次はこんなトレーニングをしてみよう」と、スキルアップのためのアイデアも出てくるようになります。
ダン(シュミット・ダニエル)がロアッソ熊本に入団した時に、彼は「3年で日本代表になる」と宣言しました。そして3年後、ダンは本当に日本代表になったのです。彼はゲームで活躍すれば代表に選ばれると考え、自ら相手チームのスカウティングを行い、トレーニングメニューにその内容をプラス。独自に相手FW対策の練習メニューを考えていました。そのトレーニング成果をゲームで発揮しようと、いつもワクワクしていたように私には見えていました。コーチに言われたメニューしか取り組まない受け身の選手が、プロでも正直多くいます。そこから一歩踏み込んだ行動が、ダンのような選手を作るのだと感じています。
自主性を持って、ポジティブに取り組むことで自然とプレーのアプローチが変わっていきます。「シュートがきたら嫌だな」、「やばい、クロスが上がってくる」と思うか、「ボールを奪うチャンスがきた」と考えるか。この違いだけでも、プレーの積極性に差が出てくるはずです。
本コラムの最後にお伝えしたいこと。それは、「自分の軸を持ってプレーする」習慣をつける大切さです。言われたことをやるだけの選手ではなく、自分で考え行動する。ピンチの時も「ボールを奪ってチャンスに変えよう」と思えるポジティブな心。その全てが、チームを勝利に導くプレーにつながるのです。ぜひ、相手ボールを掴んで、自分の夢も掴めるGKになってください。
企画・構成・文章/佐々木 貴智